乾 晴行教授がフンボルト賞を受賞

 ドイツのアレキサンダー・フォン・フンボルト財団(Alexander von Humboldt Foundation)は,本年度のフンボルト賞(Humboldt Research Award)を乾 晴行・京都大学大学院工学研究科教授に贈ることを発表した.フンボルト賞はドイツ政府が全額出資する国際的学術活動の支援機関であるアレキサンダー・フォン・フンボルト財団が創設した賞で,人文,社会,理学,工学,医学の各分野において,基本的な発見もしくは新しい理論によって後世に残る重要な業績を挙げ,今後も学問の最先端で活躍されると期待される国際的に著名な研究者に対して授与されるもので,これまでの受章者のうち40名以上がノーベル賞を受賞しているドイツの最も栄誉のある賞とされている.授賞式は2022年3月24日にドイツ・バンベルク市において行われ,同6月にはベルリン市のドイツ大統領官邸ベルビュー宮殿での大統領主催レセプションにも招待されている.
 今回の受賞の対象となった研究は,「先進構造材料における力学特性発現メカニズムの基礎解明」であり,特に原子分解能電子顕微鏡を駆使した転位やその芯構造の原子スケール解析を通して,ナノ・メゾ構造を制御し,強度や変形能に優れた先進高温構造材料の創製を行い,新材料の実用化,既存材料の特性改善に直結する顕著な成果を挙げたことが高く評価された.乾教授は,Ti-Al系アルミナイドのラメラ組織の強度と延性には大きな異方性があり,ラメラ方位の選択により高強度と高延性が同時に達成できることを世界に先駆けて解明し,Ti-Al系アルミナイドの航空機エンジンへの搭載に関する実用化研究を加速した.また,非常に脆いと考えられている脆性材料でも,試料サイズをミクロン・メーター・オーダーまで小さくすれば,室温でも塑性変形が可能な場合があることを見出し,脆性材料研究における新しい研究展開の端緒を切り開いた.この知見は,従来全く不明であった亜鉛めっき鋼板に現れるFe-Zn系金属間化合物の変形特性の解明に繋がり,日本の独自技術である亜鉛めっき鋼板の高性能化に向けた企業の応用研究を更なる高いステージへと導いた.これらの一連の研究は,構造材料分野の研究の流れに大きな影響を与えている.
 現在も,文部科学省科学研究費新学術領域「ハイエントロピー合金」の領域代表者を務めるなど活躍を続けており,多くの国際会議のオーガナイザー,国際学術雑誌IntermetallicsやSTAMの編集などを先導的な立場から務め,日本学術会議会員として学術の発展にも貢献している.

Inui-Humboldt

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